【カイロの語源と歴史】使い捨てカイロが誕生した経緯は?

2024/11/20

カテゴリー:カイロの豆知識・お役立ち情報

カイロのパッケージと中身

寒い時期や身体が冷えた時に重宝するカイロ。
使い捨てカイロ発祥の地である日本は、世界で最も多様なカイロが販売され、広く使われている国です。
では、カイロはいつ頃から使われはじめ、どのように進化を遂げてきたのでしょう?
当記事では、カイロの歴史や語源についてわかりやすく解説します。
使い捨てカイロの仕組み・正しい使い方・捨て方などの豆知識もわかります。

カイロの語源は『懐炉』

一見、外来語のようにも見える「カイロ」という言葉ですが、語源は日本語の『懐炉(かいろ)』です。
「懐」「炉」という文字は、下記のような意味を持ちます。


・懐(ふところ):着物や衣服の内側、特に胸やお腹の部分
・ 炉(ろ):火を焚いて温める道具や場所

つまり、カイロとは懐に入れて使う暖房器具のこと。
江戸時代に金属製の小さな箱の中に火をつけた懐炉灰(燃料)を入れて用いたのが始まりとされています。
明治時代になり、後述する灰式カイロが普及しはじめる頃には、「カイロ」というカタカナ表記が一般的になったようです。

日本のカイロの歴史

ここからは、日本におけるカイロの進化の歴史を見ていきましょう。
カイロのルーツとされる温石(おんじゃく)から、令和の最新トレンドまで解説します。

日本のカイロの歴史(平安末期から令和)

カイロのルーツ「温石」:平安末期~江戸末期(1100年前後~1870年代)

携帯できる暖房器具、カイロのルーツは「温石」だとされています。
温石とは、火(囲炉裏や焚火)や熱湯で石を温めて布で包み、懐に入れて体を温めるものです。
温石は平安時代末期には存在していたようで、各地の遺跡からも出土しています。
※下の画像は荒久遺跡(千葉県市原市)から出土した温石です。

荒久遺跡から出土した温石

■出典: 温石(荒久C)/市原歴史博物館
温石は鎌倉時代から戦国時代を経て、江戸時代末期まで広く用いられていました。
温石を使用する女性

灰式カイロ(カイロ灰)が登場:江戸末期~平成(1870年頃~2010年頃)

江戸時代の終わり頃になると、金属製の容器の中にカイロ灰を詰めた灰式カイロが登場します。

カイロ灰とは、麻殻や殿炭粉を袋に詰めたり、炭や木を燃やした灰を加工して棒状にした燃料です。
カイロ灰に火をつけるとジワジワと燃えていき、その熱がケースに伝わって暖かくなる仕組みでした。

灰式カイロ

■出典:灰式カイロ(はいしきかいろ) | くらしの道具 | 所蔵品アーカイブ | 練馬区立石神井公園ふるさと文化館・分室
灰式カイロは温石に比べて長時間温かさを保てるために需要が高まり、明治時代には灰式カイロのメーカーが多数設立されました。

その後、ベンジンカイロの登場によって灰式カイロは廃れていくものの、2010年頃までは登山用品としてわずかに製造が続けられていました。
※現在は生産が終了しています。

ベンジンカイロ(白金触媒式カイロ)が人気に:大正(1923年~)

大正時代になると、「ベンジンカイロ」(白金触媒カイロ)が登場します。
ベンジンカイロは、気化したベンジンがプラチナの触媒作用によって炭酸ガスと水に分解される時に発生する酸化熱を応用した発熱器です。

矢満登商会(現ハクキンカイロ株式会社)の創業者・的場仁市が発明し、 1923年(大正12年)に「ハクキンカイロ」という商品名で発売しました。
※以降の文章内では一般名である「ベンジンカイロ」と表記します。

初期のハクキンカイロ

■出典:ハクキンカイロ100年の歩み ハクキン資料館|ぬくもりを届けつづけて100周年|ハクキンカイロ株式会社

ベンジンカイロは、注油して繰り返し使用できます。
そのため、長時間にわたり安定して熱を発生させられました。
利便性にすぐれたベンジンカイロは人気商品となり、1934年には販売数50万個を突破しました。
また、戦時中は政府からの要請により、寒い戦地で戦う日本兵への慰問袋の中にベンジンカイロを一つ入れて送っていたそうです。

昭和になっても広く使われていたベンジンカイロですが、使い捨てカイロの登場とともにニーズは激減していき、今ではあまり見かけることはなくなりました。
とはいえ現在も製造は続けられており、登山や寒冷地でのアウトドアレジャーのお供として愛好家に支持されています。

現在のハクキンカイロの構造

■出典: ハクキンカイロについて|ぬくもりを届けつづけて100周年|ハクキンカイロ株式会社社

現在のハクキンカイロの熱量は、使い捨てカイロの約13倍あり、 25ccのべンジンで最大約24時間保温できる低燃費を実現しています。

使い捨てカイロの誕生:昭和(1978年~)

昭和50年代に入ると、現在のような形の使い捨てカイロが登場します。
1978年(昭和53年)、ロッテ電子工業(現在はロッテ本体に吸収合併されている)が携帯用カイロ「ホカロン」を全国的に売り出しました。

初代のホカロン

■出典:ホカロン: |LOTTE GROUP公式オンラインモール
使い捨てカイロは、鉄粉が酸化する時に発生する熱を利用し、手軽に長時間温かさが得られる画期的な商品でした。

【使い捨てカイロの特徴】

・手で揉むだけで温まる
・火を使わず安全
・臭いがない
・軽くて持ち運びやすい
・安価(1個100程度)

大ヒットした「ホカロン」に続き、桐灰化学、フマキラー、大日本除虫菊など多くのメーカーが市場に参入し、使い捨てカイロの市場は急拡大していきました。

1981年に『貼らないタイプ』のミニサイズ、1988年に『貼るタイプ/レギュラー』が登場します。
さらに、『くつ用』『座布団用』『くつ下用』『中敷用(インソールタイプ)』『スリッパ用』『きんちゃくタイプ』など、商品の多様化によって消費量はさらに拡大しました。

電子レンジカイロの登場:平成(2000年~)

2000年頃からは電子レンジで温めて使うタイプのカイロが登場します。
穏やかで心地よい温かさが得られ、手軽に温められて繰り返し使えることから人気となりました。

代表的なヒット商品「ゆたぽん」は、ジェルタイプで湯たんぽのように使えるカイロです。
電子レンジで2~3分加熱するだけで温かさが最長約7時間も持続し、主に就寝時に足元を温める用途で注目されました。

ゆたぽん

■出典:ゆたぽん(白元アース)
他にも、中身にセラミックビーズ、小豆、玄米などを使った多様な商品が発売されています。
目や肩など特定の部位を温めてリラックス効果を得られるものなど、用途もさらに広がりました。

電池式カイロ(充電式カイロ)の登場:平成(2006年~)

2006年(平成18年)には、電池式のカイロが登場します。
本体に発熱素子・サーモスタット・充電式バッテリーなどが内蔵されており、バッテリーから発熱素子に電気が流れて熱を発生する仕組みです。

充電式カイロ

■出典:(プリズメイト) 使い捨てないカイロ
温度は使い捨てカイロより低めのものが多いようですが、最近は温度調節機能が付いたタイプもあります。
USBケーブルで使える充電式カイロが人気で、充電式カイロにモバイルバッテリーやLEDライトの機能を併せ持つ多機能モデルも登場しています。

カイロの最新トレンド

現在も新たな商品が誕生し続けているカイロ市場。
ただ温めるだけでなく、使い勝手やデザインにこだわったカイロや、環境に配慮したカイロがトレンドです。
■薄型・コンパクト化
薄くて軽量な商品が増えており、衣類の下に装着しても目立たないカイロ、ポケットなどに入れて手軽に持ち運べるカイロが人気です。
■持続時間の延長
より長時間発熱するカイロの開発が進み、20時間も持続する製品も登場しています。
■エコ・再利用可能なカイロ
環境への配慮から、使い捨てタイプだけでなく、繰り返し使えるエコなカイロが注目されています。
使い捨てカイロの中でも、成分に塩を含まず土にそのまま還せるエコタイプの商品が登場しています。
■デザイン性の向上
シンプルなデザインだけでなく、キャラクターやおしゃれなパッケージを採用したカイロも登場し、若年層を中心に人気を集めています。
■健康・美容効果を目的としたカイロ
体を温めることで血行を促進し、冷え性改善や肩こり解消を目的としたカイロも開発されています。
特に女性をターゲットとした、腰やお腹を温める専用商品が増えています。

使い捨てカイロの豆知識

ここからは、使い捨てカイロの仕組み、正しい使い方と捨て方について簡単にご紹介します。

使い捨てカイロの仕組み

使い捨てカイロの中には、鉄粉・水・活性炭・保水材(バーミキュライト・吸水性樹脂・木粉など)・塩類の5つの成分が入っています。
袋を開けると鉄粉が酸素に触れて酸化し、同時に酸化熱が生成されます。
この酸化熱によってカイロが温かくなるのです。
■関連記事:カイロの中身は何?各成分の役割と発熱の仕組み・再利用方法

カイロの正しい使い方・捨て方

使い捨てカイロについて知っておきたい豆知識をいくつかご紹介します。
■振ったり揉んだりする必要なし
昔のカイロと違い、今のカイロは袋から出すだけで酸化が始まり、温まるようにできています。
■低温やけどに注意
皮膚が40~60℃くらいのものに長時間触れていると、水泡などの症状が出る「低温やけど」が起こることがあります。
低温やけどを避けるために、以下の点に注意して使用しましょう。

・肌に直接貼らない(衣服の上から貼る/布でくるむ)
・同じ場所に長時間貼らない(就寝中の使用は避ける)
・商品の用途(身体用・靴用・靴下用など)を守る

■長持ちさせる方法
「ちょっと使ったカイロをまた後で使いたい」という時は、一度酸化反応を止めればOK!
カイロに酸素が入らないよう、密閉できる保存袋などに入れてしっかりと空気を抜いて冷暗所で保管します。

保存袋からカイロを出して手で揉むと、また酸化反応が始まって温かくなります。

■捨てる時の注意
使用済みのカイロは熱が冷めてから捨てます。
完全に冷めていない状態のカイロと他の可燃物が混ざると、火事になる恐れがあるためです。
未使用のまま有効期限切れになったカイロは、必ず開封して発熱させ、冷ましてから捨てます。
分別ルールについては自治体ごとに定められているので、居住地域のルールに従って分別してください。
■関連記事:カイロの捨て方は?分別方法と注意点・未使用カイロの処分法も解説

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